税理士と社労士
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税理士事務所に勤務していると、社保や労働保険関係の仕事を依頼されることがあります。
しかし、税理士には税理士の、社労士には社労士の業務区分があります。
よくあるものとして、年度更新や算定基礎を税理士にお願いしていいものか、また、税理士は受けてもいいものか、根拠も含めて記しておきたいと思います。
報酬をもらって社労士又は社労士法人以外が社労士業務をしてはいけない
社会保険労務士法27条(業務の制限)
社会保険労務士又は社会保険労務士法人でない者は、他人の求めに応じ報酬を得て、第二条第一項第一号から第二号までに掲げる事務を業として行ってはならない。
ただし、他の法律に別段の定めがある場合及び政令で定める業務に付随して行う場合は、この限りでない。
上記の通り、報酬を得て社労士又は社労士法人以外が社労士業務をおこなうことは禁じられています。
気になるのは続きの部分。
「ただし…政令で定める業務に付随して行う場合は、この限りでない。」
この、例外となる「政令で定める業務」とはなんなのか?それは、社会保険労務士法施行令2条に記載されています。
社会保険労務士法施行令2条(業務の制限の解除)
法第27条ただし書の政令で定める業務は、次に掲げる業務とする。
一 省略
二 税理士又は税理士法人が行う税理士法(省略)第2条第1項に規定する業務
おっ、ということは、おこなおうとしている社労士業務が税理士業務に付随していれば、税理士が社労士業務をしてもいいことになります。
ここで問題となるのは付随業務とはなんなのか?
具体的にいえば、算定基礎や年度更新は税理士業の付随業務に該当するのか?
ということ。
この付随業務の範囲についてはそれぞれの立場により見解が異なっていたようですが、平成14年6月6日に税理士会と社労士会で確認書が交わされ、決着がついています。
税理士又は税理士法人が行う付随業務の範囲に関する確認書
(1)・・・税理士又は税理士法人が付随業務として行うことができる社会保険労務士法第2条第1項第1号から第2号までに掲げる事務は、「租税債務の確定に必要な事務」の範囲内のものであること。
(2)社会保険労務士法第2条第1項第1号の2の業務(提出代行)及び同項第1号の3の業務(事務代理)は、付随業務ではないこと。
これにより、年度更新や算定基礎の提出は、税理士が行ってはいけないことが確認されました。
作成だけならいい?
社労士の業務は次のように定められています。
社会保険労務士法2条1項(社会保険労務士の業務)
社会保険労務士は、次の各号に掲げる事務を行うことを業とする。
一 別表第一に掲げる労働及び社会保険に関する法令(省略)に基づいて申請書等(省略)を作成すること。
一の二 申請書等について、その提出に関する手続を代わってすること。
一の三 労働社会保険諸法令に基づく申請、届出、報告、審査請求、再審査請求その他の事項(省略)について、又は当該申請等に係る行政機関等の調査若しくは処分に関し当該行政機関等に対してする主張若しくは陳述(省略)について、代理すること(省略)。
以下省略
確認書で明確に税理士の付随業務ではないとされたのは、一の二(提出)及び一の三(代理)です。
一(作成) は入っていません。
ということは、
「租税債務の確定に必要な事務」の範囲内のものであって、作成のみであれば税理士は社労士業務をしてもいいことになります。
では、算定基礎や年度更新の「作成」は、租税債務の確定に必要といえるのか?
これについては根拠条文や確認書などが現状(2022年10月現在)ないので、はっきりしません。
しかし、算定基礎や年度更新の「作成」が租税債務の確定に必要かどうか確定的ではない、
仮に必要だと説明付けができるとしても、作成のみで提出はできない(=税理士だけで業務が完結できない=責任の所在がはっきりしない)ことを考えると、作成のみ税理士がおこなう、という選択はないものと考えます。
無報酬ならばいい?
社労士法27条は、報酬を得て社労士又は社労士法人以外が社労士業務をしてはいけない、と定めています。
ということは、無報酬ならいいということになります。
ただ、お友達や家族ではないんですから、他人である税理士が無報酬で算定基礎や年度更新をしてあげることはまずないです。
仮に、別途、算定基礎いくら年度更新でいくらという料金設定をしていなかったとしても、顧問報酬に含まれる(あるいは上乗せされている)ととらえるのが普通です。
まとめ
税理士が社労士の資格も持っている場合や、税理士事務所内に社労士を抱えている場合は、税理士業務に加えて社労士業務もできます。
そういう税理士事務所で働いていた人間は、どれが税理士業務で、どれが社労士業務なのか曖昧になっている可能性があります。
税理士・社労士、それぞれの業務区分をキッチリと把握しながら、知らず知らずのうちに違反などしていないよう、気を付けて業務に取り組む必要があります。