わたべうた

〈童子〉時代小説傑作選「わらべうた」を読みました

以前、現役女性作家の作品のうち、医療をテーマとする時代小説をおさめた、〈医療〉時代小説傑作選「いやし」を読みました。

この傑作選から良いシリーズものに出会え、楽しめたので、今度は別のテーマものに挑戦。

子供をテーマにした〈童子〉時代小説傑作選「わらべうた」です。

著者は、宮部みゆきさん、西條奈加さん、澤田瞳子さん、中島要さん、梶よう子さん、諸田玲子さんです。

宮部みゆきさん以外、どなたの作品も読んだことがありません。

今回もシリーズものの一篇が多いようなので、良い作品に出会えれば、との期待を込めて手に取りました。

いちばんよかったのは、諸田玲子さん著「お鳥見女房」シリーズの一篇「安産祈願」

「お鳥見女房」シリーズは、解説によると、幕府隠密お鳥見役・矢島伴之助の妻の珠世とその周囲の人々を描いた人気作、とのこと。

今回集録されている「安産祈願」は、珠世が主人公ではなく、雪という5人兄弟の末っ子(10歳くらい)が語り手となり、新たに生まれてくる妹か弟に嫉妬して思い悩む様子が描かれています。

嫉妬してしまう気持ち、そしてそれを親兄弟には隠したいと思う気持ち、そのかわり赤の他人にはそのイライラをぶつけてしまう気持ち、よくわかります。

子供ってかわいいな、と思う反面、大人になった今でも同じようなもんだな、とも思います。

40代の今でも、嫉妬するし、それを人にさとられたくないと思うし、イライラすると他人につっけんどんな物言いをしてしまう。

雪の嫉妬心を理解し、子供だからと軽んじることなく真摯に向き合う大人(珠世、雪の父母)達の振る舞いが素敵で心暖まります。

こちらのシリーズ、8作ですでに完結しているようなので、一気読みで楽しむには最適です。

西條奈加さん著、孤児を主人公にした連作集「はむ・はたる」から「花童」

すりなどの犯罪をしていたが、紆余曲折を経て、まっとうな商売を始めた15人の孤児の話です。

連作なので、毎回主人公が別の人間(主に子供)です。

集録されている「花童」は、9歳の少女・伊根が孤児仲間のハチに思いを寄せ、ハチの血のつながらない妹・花に嫉妬する、という物語です。

しっかりもので強いと思われている伊根が、心の中では花に嫉妬し、いなくなればいいと願っている。

ただ、実際にいなくなると自分がそう願ったせいだと気に病んでしまう。

恋心、嫉妬心、自責の念・・・先程の「安産祈願」同様、大人になった今でも同じようなことを繰り返しているもんだとなと思いつつ、楽しく読み進めました。

元となった連作集「はむ・はたる」は1巻のみだったので早速読んでみました。

6つの連作になっているんですが、「花童」でも触れられている仇討ちのはなしが一番おもしろかったです。

いつもは優しいお兄さんが実は仇討ちを画策しており、目の前で人を殺める。

時代が時代ですから、人を斬ることの認識が今とは大分違いますが、ショックを受けつつも事実を受け止め、大人を理解しようとする、さらには守ろうとする子供のいじらしさに胸をうたれます。

この「はむ・はたる」、元々は、金貸し業の手伝いをする浅吉の物語「烏金」から派生した物語のようです。

「烏金」、まだ読んでいないんですが、レビューを見ると「江戸のお金のからくりがわかる」とか「商売の知恵」などの文言があり興味津々。

次は「烏金」読んでみます。楽しみ!

まとめ

前回の医療シリーズの方が好みではあるんですが、今回の童子シリーズも良かったです。

子供は無邪気なだけではない。

大人と同じように、嘘はつくし、嫉妬もするし、隠し事もするし、悪いこともする。

じぶんの子供時代を思い返してもそうでした。

それでも、やはり子供が主人公のせいか、描写のせいか、どの作品も暗い感じはなく、心暖まる気持ちになる作品が多かったです。

まずは、「烏金」を、次に「お鳥見女房」シリーズを楽しみたいと思います!