女職人

時代小説アンソロジー「てしごと」をよんで思うこと

働く女性の姿を描いた作品を集めた時代小説アンソロジー「てしごと」を読みました。

短編集はシリーズものの一編を集録しているものも多いので、ここで気になる作品を見つけてシリーズ本編に入っていく、という楽しみ方を最近しています。

本作品に集録されているのは、あさのあつこさん、小松エメルさん、澤田瞳子さん、奥山景布子さん、西條奈加さん、志川節子さん、の6人です。

特に面白かった作品2つを紹介します。

奥山景布子さん著「掌中の天」

かけだしの根付職人おりん、恋をとるか、仕事をとるか、のおはなしです。

恋人も同僚も女職人に理解がない。

同僚からは、ものにならなければ嫁にいけばいいから気楽なもんだと思われ、恋人からはじぶんよりも仕事に打ち込む理由を求められる。

おりんは、
「男なら、職人になるのにも、仕事に精魂込めるにも、何の説明もいらないのだろう。なのに、なぜ女は、いちいち理由を言わなければならないのか。」となげきます。

今はさすがに「恋(結婚)か仕事か」の選択を迫られる場面は少ないかもしれませんが、「こどもか仕事か」の選択を迫られることはあるでしょう。

わたしは今までこの選択を迫られたことはなく、やりたいと思ったときにやりたいと思う挑戦ができてきました。

じぶんのことはさておき、こどもを産めるのは女性だけなので、この選択は仕方ない部分があることも分かりつつ、能力も目標もある女性が子育てのために仕事を制限している姿をみると歯がゆくなったりします。

今は、男性の育休が増えてきたといいますが、中小企業のお客様を相手にしているとなかなかその実感はわきません。

厚生労働省発表の令和3年度の育休取得率をみても、女性85.1%に対し男性は13.97%。まだまだ子育ては女性中心です。

ただ、今の勤務先では、こどものいる男性がこどもの送り迎えや、熱が出たときの呼び出しなどで休んだり遅刻をすることも多いです。そして、それを会社は受け入れ、不満を抱える社員もいません。

20年前働いていた会社ではそんな場面は全くなかったので、確実に前に進んでいる実感はあります。

スローペースであっても、男性と女性が同じ比率で子育てに取り組み、働きたいと望む女性がそれを実現させやすい社会になってほしいと思います。(話が大分それました・・。)

男だ女だ関係ない視点でいえば、根付の師匠・正直さんが素敵な上司で、読んでて気分がいいです。

師匠の考えで好きだったところは、

「技が上がるとひけらかしなくなるが、それをするとできあがった作品は冷たく見える。」というもの。

わたしの解釈では技を知識に置き換えても同じかなと。

なんであれ、ひけらかして、自分が自分が!となるのではなく、相手の身になって考えられる人でありたい。
(なかなか難しいですが!)

安定して面白い!あさのあつこさん著「おもみいたします」

あさのあつこさんの作品は、全般的に、さわやかさがなくて大好きです。

体調をくずした蝋燭問屋の主人・喜平は、これは妻に毒を盛られているせいだと疑心暗鬼になります。そこに揉み屋である梅が登場し、喜平の身体を揉みほぐし、体調悪化の真相が明らかになっていくというおはなし。

女職人・梅のすごさを書いてはいるんですが、それよりも、我慢を重ねることの害や、若い娘からの助言を素直に聞き入れ励まされることができる喜平の器の方に目がいきました。

じぶんでも気づかないうちに、我慢しすぎて身体が岩みたいに固くなっていく喜平。

我慢の限界がきて体調が悪くなっているのを、妻に毒を盛られているんだと考えてしまう喜平。

梅の、
「毒は外から盛られたんじゃなくて、喜平さんの身の内にあった」という言葉が耳に残ります。

そして、10代の小娘に、
「楽に生きてくださいな」
と言われ素直に涙を流せる喜平にもぐっときます。

独身時代に本気で惚れた娘とは家業の事を考え別れ、一番目の妻とは全く性格が合わないのにこれまた家業の事を考えて(妻の実家は大きな得意先)我慢して結婚生活を続ける。

すべての中心は家業。

まじめだから女遊びもせずそこも我慢。

「これまで、心を揺らせることも涙を零すことも必死でこらえてきた。商いのためだけを、店を大きくすることだけを考えてきた。」

「本気で泣くことなど百害あって一利なしだと、信じていた。」

という喜平。

男女関係なく、我慢の果てはこうなるのか、というのが知れて気を付けなければと思わせます。

と、同時に喜平みたいにちゃんと人の意見を受入れられる人は素敵だな、とも思います。

梅の揉みの技術、聞く姿勢があってこそですが、そこに小娘如き! という感情ではなく、素直に聞き入れて涙を流せるところは見習いたい。

まとめ

今回、シリーズものは1作品だけで、紹介した2つは書き下ろしです(多分)。

今回はここからシリーズものという流れができなくて残念でしたが、短編のみで楽しめる作品ではあったので満足です。