髙田郁さんの現代小説「ふるさと銀河線 軌道春秋」を読んでみて
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髙田郁さんといえば「みをつくし料理帖シリーズ」や「あきない世傳 金と銀シリーズ」などの時代小説が有名ですが、もともとは漫画原作者としてデビューされたそうです。
「ふるさと銀河線 軌道春秋」は、漫画原作を小説化したもので、9つの物語が収録された短編集です。
2013年発売ですが、今年(2022年)の「大阪ほんま本大賞」受賞作です。
※「大阪ほんま本大賞」とは、大阪の本屋さんや問屋さんが選んだ「ほんまに読んで欲しい1冊」だそうです。
(大阪に由来のある著者や物語であること等の要件あり)
実は、時代小説と勘違いして購入したので(帯に現代の物語って書いてあるのに…)、そんなに期待していなかったんですが、結果としては「意外に良かった」です。(偉そうにすみません。。)
暗いテーマがいい
「リストラ」「父親に殺意を抱く息子」「息子を失った親」「アルコール依存症」「認知症」…など暗いテーマばかりです。
わたしは現代小説はそんなに読まないけれども、読むとしたら、明るいものファンタジーなものよりも、暗くて重いものが好きなので、テーマとしてはgoodでした。
暗いテーマだけれども、その全てにおいて最後救いがあります。
(あるいは、救いとまではいかなくても、前を向いて終わっている。)
テーマはどれだけ暗くても重くてもいいんですが、やはり、最後に救われてほしい。
(映画セブンみたいな救いのなさ、後味の悪さは嫌…。)
あえて不満を言うならば、、
こんな簡単に救われちゃうのね、前向けちゃうのね感が半端なく、そこまで入り込むことができなかったということ。。
ただそれは髙田さんの現代小説がダメと言うわけではなく、短編集ゆえ仕方ない気もします。
可能であれば、長編で書き直して頂いて、もっと深いところまで描かれたものを読んでみたい。
ムシヤシナイ
個人的に一番好きだったのは、父親に殺意を抱く息子を描いた「ムシヤシナイ」です。
厳しい父親のもとおさえつけられて育った息子(中学3年生)は、とうとう我慢の限界をむかえ「親父を殺すかもしれない・・・」というところまで追い詰められます。
家出をした息子が向かったのは、没交渉だったじいちゃんのアパート。
じいちゃんは、「包丁は人をさすものじゃない。ネギを切るもんだ。」ということを教え、最後には、「お前はもう大丈夫だ。」と声をかける。
没交渉のじいちゃんのところしか頼る所がない息子(孫)、多くを聞かない・語らない祖父、きっと何も分かっていない父親、それぞれが愛らしく思えてしまう不思議。
この作品だけは短編であることの物足りなさは感じませんでした。
逆にダラダラ長引かせたりせずさくっと終わったからこそ、ぐっと心をつかまれたのかもしれないと思えます。
あなたへの伝言
アルコール依存症により夫から距離をおかれた妻の様子を描いた「あなたへの伝言」も良かったです。
なんとか断酒しているものの悪夢にうなされる日々。
そんな中、断酒会で知り合った友人が再び酒におぼれる姿を目の当たりにする。
誰かに救われることもなく、夫とよりが戻る兆しもないまま物語は終わります。
とらえようによっては救いのない話。
なんとか、お酒を飲まない「今日」を積み重ねていってるだけ。
でも、後味の悪さは全くないです。不思議なことに。
現実って、そうそう救世主みたいな人は現れないし、劇的なことも起こらないよな、と納得できてしまう。
直接的な救いはないけれども、なんとか「今日」を前向きに生きようとする主人公に愛おしさを覚えます。
まとめ
髙田郁さんの現代小説、初めて読みましたが良かったです。
暗いテーマのチョイス、救いのある(あるいは前向きな)終わり方が個人的に好みでした。
ただ、短編だと感情移入が中途半端で終わってしまうので、できれば長編で読みたかったな、そしたらもっとはまっただろうな、と思います。