開業前にかかった費用で利益調整しよう!

本日は、開業前にかかった費用の処理について、個人と法人に分けてご説明します。

両者多少の違いはあるものの、ざっくりした結論を言ってしまえば「開業前にかかった費用は、いつでも好きな時に経費化できるよ!」です。

では、それぞれについて確認します。

個人事業は「開業費」

「事業を開始するまでの間に開業準備のために特別に支出する費用」開業費といいます。

”費”とついてはいるものの、これは”費用”ではなく繰延資産という”資産”です。

所得税法施行令7条(繰延資産の範囲)

 法第二条第一項第二十号(繰延資産の意義)に規定する政令で定める費用は、個人が支出する費用(資産の取得に要した金額とされるべき費用及び前払費用を除く。)のうち次に掲げるものとする。

 開業費(不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業を開始するまでの間に開業準備のために特別に支出する費用をいう。)

繰延資産とは、「本来は費用計上されるもののうち、その効果が将来にわたって続くもの」をいい、開業費もそのひとつです。

主な開業費は以下の通りです。

開業費となるもの

・開業前のセミナー参加費
・開業前の市場調査費
・開業前の研修費
・開業前の打ち合わせのための費用
・開業前に作成したホームページ費用
・開業前に配布するためのチラシや名刺作成代
・開業前の備品購入費(1点10万円未満のものに限る)
・開業前に発生した支払利息

一方、開業前に払った費用でも開業費とならないものもあります。

開業費とならないもの

・1点10万円以上の備品購入費(固定資産として計上)
・水道光熱費・地代家賃など(開業後も経常的にかかる費用)
・仕入(開業準備のために支出したものではなく利益を得るための費用「売上原価」だから)

5年均等償却or任意償却

こちら、いったん資産として計上してその後費用化していきます。

費用化は、5年均等償却か任意償却のいずれかです。

一般的には、任意償却を選択し利益の出たタイミングで経費化する方が多いです。

限度額や年数が定められているわけではないので、利益がたくさん出て経費をたくさんつけたければ1年で全額償却してもいいし、赤字が大きく費用化する必要がなければ償却なしでもOKです。

所得税法施行令137条(繰延資産の償却費の計算)

 法第五十条第一項(繰延資産の償却費の計算及びその償却の方法)に規定する政令で定めるところにより計算した金額は、次の各号に掲げる繰延資産の区分に応じ当該各号に定める金額とする。

 第七条第一項第一号又は第二号(繰延資産の範囲)に掲げる繰延資産 その繰延資産の額を六十で除し、これにその年において不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務を行つていた期間の月数(その年がその繰延資産となる費用を支出した日の属する年である場合には、同日から当該業務を行つていた期間の末日までの期間の月数)を乗じて計算した金額(当該計算した金額が、その繰延資産の額のうち既にこの項の規定により不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入された金額以外の金額を超える場合には、当該金額。次号において同じ。)

 省略

 省略

 居住者が、第一項第一号に掲げる繰延資産につきその年分の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額として、当該繰延資産の額の範囲内の金額をその年分の確定申告書に記載した場合には、同号に掲げる金額は、同号の規定にかかわらず、当該金額として記載された金額とする。

法人は「創立費」と「開業費」

個人事業は「開業費」だけでしたが、法人の場合は「開業費」以外に「創立費」なるものがあります。

「創立費」は法人の設立のために支出する費用をいい、「開業費」は開業準備のために特別に支出する費用をいいます。

ざっくりいえば、法人設立日までにかかったものは「創立費」、法人設立日から開業前までにかかったものは「開業費」となります。

法人税法施行令14条(繰延資産の範囲)

 法第二条第二十四号(繰延資産の意義)に規定する政令で定める費用は、法人が支出する費用(資産の取得に要した金額とされるべき費用及び前払費用を除く。)のうち次に掲げるものとする。

一 創立費(発起人に支払う報酬、設立登記のために支出する登録免許税その他法人の設立のために支出する費用で、当該法人の負担に帰すべきものをいう。)

二 開業費法人の設立後事業を開始するまでの間に開業準備のために特別に支出する費用をいう。)

創立費となる代表的なものは次の通りです。

創立費となるもの

・発起人に支払う報酬
・設立登記のための登録免許税
・設立登記にかかる司法書士等への報酬
・定款認証代
・印鑑証明書の発行手数料
・そのほか、法人設立のためにかかった費用

開業費となる代表的なものは次の通りです。(個人事業と同じです。)

開業費となるもの

・開業前のセミナー参加費
・開業前の市場調査費
・開業前の研修費
・開業前の打ち合わせのための費用
・開業前に作成したホームページ費用
・開業前に配布するためのチラシや名刺作成代
・開業前の備品購入費(1点10万円未満のものに限る)
・開業前に発生した支払利息

一方、開業前に払った費用でも開業費とならないものもあります。(個人事業と同じです。)

開業費とならないもの

・1点10万円以上の備品購入費(固定資産として計上)
・水道光熱費・地代家賃など(開業後も経常的にかかる費用)
・仕入(開業準備のために支出したものではなく利益を得るための費用「売上原価」だから)

任意償却

個人事業と一緒で、いったん資産として計上してその後費用化していきます。

償却方法は、任意償却です。よって、利益の出たタイミングで経費化すればOKです。

個人事業同様、限度額や年数が定められているわけではないので、利益がたくさん出て経費をたくさんつけたければ1年で全額償却してもいいし、赤字が大きく費用化する必要がなければ償却なしでもOKです。

法人税法施行令64条(繰延資産の償却限度額)

 法第三十二条第一項(繰延資産の償却費の計算及びその償却の方法)に規定する政令で定めるところにより計算した金額は、次の各号に掲げる繰延資産の区分に応じ当該各号に定める金額とする。

 第十四条第一項第一号から第五号まで(繰延資産の範囲)に掲げる繰延資産 その繰延資産の額既にした償却の額で各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されたもの(当該繰延資産が適格合併、適格分割、適格現物出資又は適格現物分配により被合併法人、分割法人、現物出資法人又は現物分配法人から引継ぎを受けたものである場合にあつては、これらの法人の各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されたものを含む。)がある場合には、当該金額を控除した金額

まとめ

「開業費」「創立費」は、会計と税務で微妙な差があるので(償却方法が違ったり開業費の範囲が違ったり)初心者には少々分かりにくいところがあります。

実務上、初めから税務上の処理をすることが一般的なので、本記事では税務上の考え方のみを紹介しています。

開業前の打ち合わせ費用やセミナー参加費を開業費から漏らしている方、結構いらっしゃいます。

開業前にかかった費用は利益調整可能なのでとっても便利なものです。

必ず領収書は残しておきましょう!