記帳代行のいいところ(事業者目線と税理士目線)

こんにちは、越谷市の税理士、恒川です。

顧問先のうち、8割が記帳代行(資料を預かって税理士事務所で会計ソフトに入力)、残り2割が先方入力です。

わたしが会計業界に足を踏み入れた15年ほど前は記帳代行が主流だったんですが、

クラウド会計の登場により、会社や事業者自らが入力を行うケースというのが増えてきました。

近年は、「記帳代行はしない」というスタンスの税理士事務所も増えています。

記帳代行は廃れていく、、、という業界の空気をひしひしと感じる今日この頃。

なんですが、時代の流れに逆行して、わたしは今後も記帳代行続けていきたいと思っています。

記帳代行がよい理由(事業者目線)

事業者側の記帳代行のメリットは次の2点。

記帳代行がよい理由(事業者目線)

・会計処理の負担が減り、本業に集中できる

・専門家が入力するので、精度の高い試算表が作成できる

クラウド会計ソフトの登場により入力作業が以前に比べて楽になったことは事実ですが、

それでもやっぱり経理経験のない人が自分で入力するとなると、それなりに手間と時間がかかります。

できたつもりになっていても、突拍子もない仕訳をおこしてしまっていたり、当然気にすべきところをスルーして

全く信用できない試算表ができあがっている、なんてことはよくあります。

手間と時間をかけて入力して、不正確で何の参考にもならない試算表をつくりあげるくらいなら

最初から専門家に任せてしまった方が効率的です。

また、会計ソフトに事業者自らが入力するメリットとしてよくあげられるのが、

・リアルタイムに業績把握ができる

・数字を読む力が身に着く

という2点なんですが、正直なところ、このメリットを活かしきれている事業者は少ないように思います。

・ぐちゃぐちゃ経理になってしまっていて、リアルタイムどころか最終的にもきちんとした業績把握ができない

・できあがった数字の見方が分からないので、読む力など身についていない

というのが現実です。

まず、リアルタイム経理について。

ある程度大きな会社ならいざ知らず、社長ひとり、社員数名規模の会社であれば、

そこまでリアルタイム経理にこだわる必要はありません。

今現在の状態が分かるのが半年後とか決算時だけなんてのはさすがにタイムラグがありすぎて

経営判断もへったくれもないので良くありませんが、前月の数字は翌月中くらいに分かればOKってなもんです。

売上くらいはリアルタイムに把握した方がいいとは思いますが、利益の部分までリアルタイムで知る必要はまあないです。

理由は、「原価」「家賃」「人件費」などの大きな経費は月に1回しか計上されず、その前後で利益が全く変わるから。

「原価」「家賃」「人件費」の計上がされていない途中時点の数字など意味がありません。

次に、数字を読む力について。

簿記を知らない方がクラウド会計を利用している「だけ」で数字を読む力が身につくなんてことは、まずありえません。

数字を読む力は、クラウド会計の有無に関係なく、自身で学んだり、専門家の助言を得ながら

試算表を分析することで少しずつ培われていくもの。

やみくもにクラウド会計ソフトを利用している「だけ」では、一向に数字を読む力など身につかない、

というのがわたしの考えです。

身に着くものがあるとすれば、それは会計ソフトの操作方法だけ。

決して、数字を読む力ではありません。

記帳代行がよい理由(税理士目線)

税理士側の記帳代行のメリットは次の2点。

記帳代行がよい理由(税理士目線)

・データ連携や仕訳をおこしてくれるサービスを利用することで手入力の手間はほとんどない

・ぐちゃぐちゃ経理を直す手間がない

まず、データ連携や仕訳をおこしてくれるサービスを利用することで手入力の手間がほとんどないという点について。

ひと昔前の記帳代行と今の記帳代行って全然違います。

ひと昔前の記帳代行は、いわゆる「領収書丸投げ」。

事業者は、通帳コピー、領収書や請求書、クレジットカード明細などの必要資料をまとめて税理士事務所に渡し、

その後税理士や担当者が会計ソフトにひとつひとつ仕訳を入力し、それを元に試算表や決算書が作成される、というもの。

領収書やレシートは整理されている場合もあるけれども、中には「現金払いしたもの」

「クレジットカードで払ったもの」「預金口座から直接支払ったもの」のすべてが

ごっちゃになった状態で渡される場合もあり、そんなときはまずその分別から作業を始めなければならず、これがまあ大変(-_-;)

量が多い、同じ購入先で現金払いとクレジットカード払いが混在、なんて場合は本当に面倒で無駄な作業です。

しかし、今の記帳代行はだいぶ違います。

最も大きな違いは、預金口座、レジ、クレジットカードなどが会計ソフトと連携し自動で取り込めるようになったこと。

ひとつひとつ手入力するのに比べて劇的に手間がかかりません。

わたしの場合、弥生の記帳代行支援サービスというものを利用しているんですが、

これを利用していると、事業者側が会計ソフトを導入していなくても連携が可能。

顧問先に定期的な承認操作はお願いすることになるものの、

あらためて通帳コピーやクレジットカード明細をもらう必要はなくとってもラクです。

なお、連携が難しい顧問先についてはエクセルやCSVでデータをもらって、

そのまま(あるいはちょっと加工して)取り込むようにしています。

その他、現金払いしたものや社長立替については、事業主側にエクセルで一覧をつくってもらい、

こちらはそれを取り込むだけにして、原則、領収書やレシートの原本は預かりません。

ただ、中にはそれが難しい方もいるので、その場合には、領収書を送ってもらい、

これまた弥生の記帳代行支援サービスを利用して、スキャンデータから仕訳をおこしてもらっています。

ストリームドを利用されている税理士事務所さんが多いかとは思うんですが、

弥生の方がコスト面で有利だったのでわたしは弥生を使っています。

このように、今の記帳代行って昔に比べると格段に手間がかからなくなっています。

単純な入力作業に時間を費やすことなく、ちゃんとチェックに時間をかけられます。

次に、ぐちゃぐちゃ経理を直す手間がない、について。

専門家や経理経験のある人間がイチから入力するのと、簿記の知識がない人がつくったものを直すのと、手間は大きく違います。

当然、後者の方がものすごく大変。

突拍子もない間違いや仕訳、ぐちゃぐちゃになった各種残高を紐解くのって本当に大変です。

最後に

今回この記事を書こうと思ったのは「記帳指導」がきっかけです。

「記帳指導」とは、主に開業したての方を対象に、税理士が帳簿のつけ方を指導するというもの。

今年担当した5名のうち2名がクラウド会計ソフトを使用していましたが、

その修正作業にとっても時間と手間がかかりました。

各種残高がほぼすべてあっていないし、ダブル計上も多数。

記帳指導は記帳の仕方を教えればいいだけで、会計ソフトの使い方を教える必要はないよ、

と言われていたんですが、目の前で困っていれば助けないわけにはいかず、

本来2時間の指導時間なのに3時間半かけ各種残高を綺麗にし、今後気を付けるべき点についてもなんとか伝えました。
(とはいえ、十分伝わったかどうか、正直なところ不安は残りますが。。。)

繰り返しになりますが、やみくもにクラウド会計ソフトをつかっている「だけ」では何も身につきません。

当事務所の顧問先を見ていても、「自社で入力をしていること」と

「数字を読み分析しそれを経営に生かせている」に相関関係はありません。

試算表の数値を分析しきちんと経営判断にいかせていると思える顧問先は、

先方入力・記帳代行それぞれに存在しています。

その逆も然りです。

自身で入力をすることで会計を覚えたい、感覚をつかみたい、そこに楽しみを見いだせる、

そういう経営者であれば、自身で入力するメリットはあります。

しかし、そうでなければ記帳代行の方が効率的かつ有意義です。

世間の流れがそうだから、周りがそうだからなんとなく、で決めるのではなく、自身にあった方法を選びましょう。